2014年6月14日土曜日

「望郷」 湊かなえ

みかんの花/海の星/夢の国/雲の糸/石の十字架/光の航路
海の星は、日本推理作家協会賞(短編部門)受賞作。


いじめ、僕はこの言葉を使うのにも抵抗がある。誹謗、中傷、窃盗、暴力、行きすぎたこれらの行為は大人がやれば犯罪とされるのに、子ども同士で起きれば、平仮名三文字の重みのない言葉で誤魔化される。せめて、漢字で「苛め」「虐め」と表記すれば、子どもでも、人として誤った行為であることを強く認識できるかもしれないが、いじめでは意地悪の延長くらいにしか受けとめることができないのではないか。

あれらの船に声援を送る者はいない。だけど、どの船も皆、今日の進水式の船のように、大勢の人から祝福されて海に出たんだろうな。
人間も一緒だ。とつきとおか待ちわびて生まれ出た赤ん坊に、願いを込めて名前をつけ、夫婦、家族、皆で喜び合い、希望を託して、広い世界に送り出す。
大海に出た船は己の役割を果たしながら海を進むように、人間もまたそれぞれの人生を歩む。海が荒れることもあるように、人生にも嵐が訪れることはある。送り出した者は助け船を出せることもあるが、すべての航路に寄り添うことはできない。
僕の役割は、僕がいる海を通過しようとしている船を、先導し、守ることだと思っている。海が荒れれば、沈まないように同じ航路を進む船同士をしっかり連結させるのも、僕の仕事だ。どんな船だって、他の船を沈めることは許されない。
畑野忠彦という名の船は出航してから、まだどれほども進んでいないところにある。こんなところで、沈んじゃいけない。沈ませちゃ、いけないんだ。


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